小学校6年生の時に水泳の競技大会に参加した。
静岡市には「葵水泳スポーツ少年団」という歴史のあるスイミングクラブがある。
通称「葵」。
水泳の授業で成績の良い子達は大抵「葵」所属。
その「葵」に所属していない僕が公式な水泳の競技大会に参加することになった。
大会に参加する人数は決まっていて、おそらく残りの少人数の枠を決めかねていたところの、学校からの推薦だったと思う。
僕と同じような環境で、推薦で決まった子がもう1人いた。
僕は学校の授業では、平泳ぎで速いタイムを出せていた。長距離マラソンも得意だった。
これが、クロールが速く、短距離走が速かったら、もっと派手で女の子にもモテていただろう。
平泳ぎでマラソンといったところが何とも地味で僕らしかった。
平泳ぎで選手として参加が決まり、放課後の猛練習に出ることになった。
当然遊ぶ時間も削られるし、出たくて参加するわけではない。
両親からは「せっかく推薦されたんだから頑張ってみなさい。」と言われ、不安ながら練習に参加していた。
大会の日が近づき、いよいよ明日に迫った最後の練習日。
プレッシャーからなのか、思う様に良いタイムが出せなくなっていた。
競技大会のルールは、競技別にクリアする基準タイムが決まっていて、それを各個人がクリアすれば得点が付く。
そのクリアした得点が多い小学校が優勝するというものだ。
日々練習を重ねても同じようなタイムが続く。
ついに大会前日まで基準タイムをクリア出来なかった。
担任の先生に気の抜けた様子で笑って不安を口にしてしまった。
「お前、笑ってる場合か!明日が本番なんだぞ!」と怒られた。
何となく理不尽な気がして悔しかったが、参加したからにはもっと覚悟が必要だった。
大会当日。
もうぶっつけ本番で臨むしかなかった。
会場には両親も応援に駆け付けてくれた。一緒に大会に出た生徒達みんなから激励の言葉をもらった。
小学校の体育の管理者だった先生も直接僕のところに来て「お前、今日は頑張れよ!」と声をかけてきた。
みんな僕のことを心配しているのだ。
緊張で押しつぶされそうになりながらも、全力で、夢中で泳ぐしかなかった。
結果は・・・
タイムクリア!かろうじて、0コンマ何秒かの差でクリア。
心配してくれていた女性の先生が泣きそうな表情で駆け寄ってきて、プールから出た濡れたままの僕を抱きしめてくれた。
体育の管理者の先生が「よくやった!!おめでとう!」と言ってくれた。
担任の先生は両親と一緒に本番を見ていてくれたらしい。
「頑張りましたね!良かったですね!」と声をかけてくれたと両親が言っていた。
もちろん、担任の先生からも直接「頑張ったな!おめでとう!」と褒めてもらった。
想像以上の劇的な空間。
僕はそこに居たこと、「葵」というスイミングクラブに所属していないど素人が結果を出せたことを誇りに思った。
余談になるが、
僕と同じ推薦で決まったもう1人の子はタイムをクリア出来なかった。
彼も僕と同じ様に緊張して競技に臨み、頑張ったはずだった。しかし、思う様に結果が得られなかった。
彼だけが唯一、得点を獲得出来なかった。
1人だけそのような結果になってしまって落ち込んだと思うが、彼は元気に振舞っていた。
僕も彼もこの大会を通して凄く大きくなれたと思うが、どちらが人生において貴重な体験が出来たかといえば、それはきっと彼の方だと思う。
逆境に耐える力、這い上がっていく力を彼は身に付けた。
まわりは彼を支えた。彼を悪く言うことはせず、笑顔で彼を称えた。
大会終わりに全員で撮った写真も、彼は満面の笑顔だった。
僕と彼は近所に住んでいて仲が良く、同じ中学校に進み、目標とした高校も同じだった。
お互い目標とした高校への進学は叶わなかったのだが、彼は僕よりいい成績の高校へ進学した。
彼に負けたとは思わなかったが、何となく自分の中で納得した。